総務省は、人間の感情を読み取り、共感的に応答できる次世代汎用人工知能(AGI)の開発に向け、嗅覚・触覚・味覚といった五感による脳活動データの収集・分析を支援する。
この取り組みは、情報通信研究機構(NICT)と大阪大学が共同で運営する脳情報通信融合研究センター(CiNet)によって推進され、2026年度から約5年間、関連経費が予算計上される予定。
■ 脳全体の機能を解析し「こころ」の仕組みを再現
CiNetは脳全体の機能を精密に解析し、システム上で再構築することで、人間の感情や心のメカニズムの解明を目指している。
これにより、2035年ごろまでに人間の感情を推察できるAIの実現を目標としている。
研究には、手の動きを認識して伝える外骨格ロボットグローブや、被験者が自由に動ける軽量センサーを搭載した先端計測機器を導入。さらに、VR(仮想現実)技術を活用し、日常生活に近い環境下での脳活動測定も行う予定。
■ 感情データを安全に共有、民間との連携も視野に
得られたデータは、個人情報の保護に配慮しつつ、民間企業への提供も検討されている。
従来は視覚情報を中心に、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)やMEG(脳磁計)などで脳活動を計測していましたが、秒単位からミリ秒単位への精度向上が今後の課題となる。
■ 「こころ」を持つ情報通信技術の実現へ
総務省の情報通信審議会は、2030年代を見据えた情報通信戦略において、**「脳情報通信」**を重点分野のひとつに掲げている。
「人間の脳機能の理解を深め、『こころ』を持って人に寄り添う次世代型脳情報インターフェース技術の実現」を目標に掲げ、解析基盤モデルの構築を進める。
同省はまた、SNSなどを通じた認知戦への防御策としても、脳機能に基づく分析技術の安全保障上の重要性を指摘している。
■ 広がる脳科学応用とAI市場の可能性
すでに脳科学を活用し、消費者の深層心理を分析してマーケティングに応用する事例も増えている。
アース製薬はパッケージデザインに脳科学の知見を取り入れ、販売額を既存品の2倍に伸ばしました。飲料・化粧品業界でも導入が進んでいる。
感情を解析するAIの市場規模は、インドの調査会社によると2032年には149億ドルに達する見込みで、医療・教育・ヘルスケアなど幅広い分野での活用が期待されている。
■ 倫理・法的なルール整備も課題に
一方で、新技術の普及には倫理・法的課題も伴う。
欧州連合(EU)では2024年施行のAI法により、職場や教育現場での感情推測AIの利用を原則禁止としている(医療・安全目的は例外)。
日本では現時点で明確な法規制がなく、今後は技術発展と並行して、社会的ルールの整備も求められる。
■ AIQ財団の視点
AIQ財団では、こうした脳情報通信技術や感情認識AIの発展を、人とテクノロジーが自然に共生する社会の礎と捉えている。今後、人間理解の深化と技術の調和を目指し、次世代AI研究の発展に引き続き尽力してまいります。